“ヒトにファンがつく店”の強さと危うさ|ブランディング戦略の落とし穴とは?
結論:「ヒトにファンがつく」戦略は強力だが、リスクの管理が不可欠
接客が丁寧なスタッフ、SNSで人気の美容師、話し上手な店主──その「ヒト」にファンがつくことでお店が繁盛するケースは、いまや珍しくありません。人間味やキャラクターに惹かれたお客様がリピートし、紹介し、ファンになっていく。“ヒトを軸にしたブランディング”は、非常に強力な集客戦略です。
しかし一方で、そこには見落とされがちな落とし穴も存在します。それは、ヒトに依存したブランディングは、再現性や持続性に乏しいということ。今回は、ヒトにファンがつくことの“強さ”と“危うさ”を両面から掘り下げ、店舗経営者としてどこに注意すべきかを解説します。
ヒトにファンがつく店は、なぜ強いのか?
お客様がファンになる最大のきっかけは「共感」や「感動」です。 それを最も直接的に届けられるのが“ヒト”という存在。誰が接客するか、誰が施術するか、誰が発信しているか──この「誰か」に魅力を感じたとき、サービスを超えて「この人のファンになりたい」という心理が生まれます。
特に以下のようなパターンで、ヒトを軸にした集客は成功しやすい傾向にあります:
- SNSで人気のあるスタッフがいる(フォロワーを持っている)
- 接客が丁寧で「人柄」に惚れ込まれる
- 唯一無二の技術や会話センスを持っている
- インフルエンサーや芸能人が紹介した「◯◯さんのお店」
このように、“ヒト”を起点としたブランディングは、共感と信頼を短時間で獲得できるという点で非常に強力です。
でもそれって「お店」じゃなくて「その人」のファンでは?
ヒトにファンがついている状態では、一見お店が人気になっているように見えますが、実際には「その人にしか価値を感じていない」というケースも多くあります。 つまり、ファンがついているのは“お店”ではなく、“ヒト”そのもの。
これはどういうことかというと──
- そのスタッフが休んでいる日は来店しない
- 異動したら、他店舗にファンが流れてしまう
- 独立されたら、お店は閑古鳥
このように、ヒトに集客を依存している場合、その人がいなくなった瞬間に売上や評判が一気に崩れるリスクを抱えています。これは、安定経営・多店舗展開・スタッフ育成など、あらゆる面で大きな障害になります。
よくある落とし穴1:再現性がない
店舗を複数展開しようとするとき、「誰にでも再現できる接客やブランド」が必要になります。ですが、ヒトに依存したブランディングは、その個人のセンス・性格・人柄に依存するため、他のスタッフでは真似できないのです。
たとえば、「◯◯さんのカウンセリングが好き」と言われたとき、それをマニュアル化することは困難です。再現性がない戦略は拡張性に乏しく、常に属人化リスクと隣り合わせです。
よくある落とし穴2:ファンの引き抜きが致命傷になる
スタッフが辞めて、近くに同業種で独立・転職した場合。 そこにファンがごっそり流れることは、決して珍しいことではありません。 「あの人に会いに来ていた」ファンは、場所や屋号よりも“誰にサービスしてもらうか”に価値を感じているため、すぐに乗り換えが起こります。
結果、お店の価値がその人ひとりに集中していたことが露呈し、集客が一気に失速する…というのは、実際に多くの現場で起きています。
よくある落とし穴3:「ヒト推し」は“個人ブランド”を強めすぎる
ヒトを推すことで、スタッフが有名になりすぎると、お店のブランディングが薄くなり、スタッフとの力関係が逆転することがあります。
「フォロワー◯万人」「あの人目当ての行列」となると、本人の影響力が大きくなりすぎて、経営側の統制が効かなくなるリスクも。さらに、「あの人が辞めたらお店の価値はゼロ」という印象をファン側にも植え付けてしまい、ブランドとしての信用が築きにくくなります。
ではどうする?“ヒトの魅力”を“お店の資産”として残す戦略
ヒトの魅力を活かしながら、「お店自体の価値」に変換する仕組みを作ることが、持続可能なブランディング戦略の鍵になります。
具体的には、以下のようなアプローチが有効です:
- 人気スタッフの接客や会話を分析し、接客マニュアル・教育に活かす
- “店の世界観”としてストーリー化し、「このお店の文化」にする
- SNS投稿やファンとのやり取りをチーム全体で共有・継承する
- スタッフが変わっても引き継げる“体験設計”を構築しておく
要は、“個人の魅力”を“仕組み”に変え、お店の財産として残す設計力が必要なのです。
まとめ|ヒトに頼らず、ヒトを活かす。経営の視点でブランディングを見直そう
ヒトにファンがつくことは、たしかに強い武器です。 しかし、「そのヒトがいなくなったら終わる店」になってしまっては、経営としては危うい状態。 ブランディングは、「誰がやっても伝わる価値」を構築することで、初めてビジネスとして持続可能になります。
スタッフの魅力を尊重しながらも、それに依存しすぎない── そんなバランス感覚を持ったブランディングが、これからの店舗経営には求められています。